鍋あり谷あり

テーマを決めずに適当に書いています。

インスパイアとインスパイヤ

なんだか id:debedebe さんが、先日の記事(id:Nabetani:20051108:p1)を、私の意図とは違う読み方をなさっている(ように装っている)ので、補足。長いけど。

私は何も、主語述語が逆転するのは間違っているとか、日本語は正しく使おうとか、そういうことを主張したいなんて思っているわけではなく。

要するに、おもしろがっているのである。

もちろん、debedebe さんが間違った言葉を使ったということでは全然なく、

のように、すでに、インスパイアする/インスパイヤする が、盗作する/パクる という意味(盗作される / パクられる ではなく)で流通している。
すでにある意味で流通している言葉をその意味で使うのは、特に流行語であれば、非難には当たらないと私は考える。

ちなみに逆に。インスパイヤされる/インスパイアされる = 盗作する/パクる という意味でも流通している

ので、どちらの意味で使っているのかは文脈で判断するしかない。
#インターネットウォッチの例では、本文中では後者だが、タイトルでは前者の「インスパイヤ」であるようにも読める。興味深い。


それに。もともと日本語は何が動作主なのかが不明瞭な言語である。例を挙げると:

ここは別荘
社長「こんなところで殺人事件があるなんて」
社員A「まさか鍋谷さんが……」
 ここで出部氏がドアを開けて入ってくる。社長に目をやり、自信ありげな口調で
出部「私もまさか、社長が殺されるとは、全く予想していませんでしたよ」
社長「な、何を言っているんだ君は」

ここで、出部が「社長が殺される」と言っているがこれを「殺す」の受け身だと思うと、被害者は社長。ここにいる社長は偽物ということになる。一方、「殺す」の尊敬表現だと思うと、社長は加害者。ここにいる社長は犯人だということになる。

受け身と尊敬の区別がつかないことを利用すると:

先生、鍋谷氏の小説を読んだんですが……先生、インスパイアされたんですか?

この「インスパイアされた」は、

  1. 盗作の被害にあったんですか?(最近の用法 - 受け身 )
  2. 盗作なさったんですか?(最近の用法 - 尊敬 )
  3. 影響を受けすぎてそのまま盗んじゃったんですか?(件の文での使われ方 - 受け身 )
  4. 影響をお与えになってそのまま盗作の被害に遭われたですか?(件の文での使われ方 - 尊敬 )
  5. 影響を受けたんですか?(本来の用法 - 受け身 )
  6. 影響をお与えになったんですか?(本来の用法 - 尊敬 )

の6通りの意味が考えられる。と思うんだが、どうだろう。


さらに付け加えておくと。受け身と尊敬の区別がつかないことを利用せずとも動作主を不明瞭にすることは容易にできる。例を挙げると:

  1. 出部は入り口で見張ってました。僕は押さえつけてました。鍋谷は首を絞めました。
  2. 出部も鍋谷も、僕が殺したんですよ。出部は僕がこの手で崖から突き落としました。鍋谷は首を絞めました。

(1)は、鍋谷が殺す側なのに、(2)では、鍋谷は殺される側のように読めると思う。
「鍋谷は首を絞めました。」だけでは鍋谷が絞めたのか絞められたのかが確定しないことがわかる。


さらに蛇足を加えると:
混乱が増すのは面白い。