鍋あり谷あり

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数を勘定できないのはむしろ英語

石原君が「フランス語は数を勘定できない言葉」などとおほざきになられてからそろそろふた月がたつが、今頃こんなトピックを書いてみる。
石原君がおほざきやがりなさったような理由でフランス語を国際語失格とするのであれば、英語の方がよほどまずいと私は思う。
英語とフランス語を両方学んだ経験のある人は、同じように思うのではないかと思うが、どうだろう*1

というわけで、英語が国際語としてフランス語と劣っていると思える点を思いつくまま六つばかり挙げてみる:

フランス語の 70, 80, 90 の表現が奇妙だという批判は、当たっている。私もずいぶん奇妙だと感じた。しかし、数えられないことはない。憶えてしまえば何でもない。
一方。数の表現では、英語には決定的な欠陥がある。billion という語が、10億なのか1兆なのか、はっきりしないのである。リーダーズを見ると

イギリスでも1951年以降 10億 の意で用いられることのほうが普通になっている

とあるので、1951年以前は英語で10億以上の数を誤解なく表現するのはほぼ無理だったということのようである。1951年以前に学生だったイギリス人は、おそらくいまだに混乱しているだろうし、1951年以前の文章では文脈で判断するしかない。
フランス語は billion は 1兆 という意味で確定しており、紛れがない。
ちなみに、billion は million の二乗ということからくる語なので、元々 1兆 という意味である。

単位

英語は、ヤードポンド法固執するイギリス・アメリカで使われている。
国際的な単位として世界で認められているメートル法は、フランス語を使う国、フランスで生まれた。

語彙

英語はいくつもの言語が混じり合ってできたため、語彙が多い。
学習辞書が収録する語数を見ても、英和辞典と仏和辞典ではだいぶ違う。
語彙が多いと詩的表現には便利かもしれないが、学習者には大きな障害となる。

英語と米語

イギリス英語だと思うかアメリカ英語だと思うかで意味が違うことがある(first floor など)。例えば私が日本で「first floor」に行けと案内したら、案内された英語圏の人は何階に行ったらいいのかわからないだろう。
フランス語は中心となる場所が一カ所しかないのでそのような混乱はない(フランスのフランス語に合わせればよいので問題が生じにくい)

綴りと発音

フランス語はごく少数の例外を除き、発音規則通りに発音する。綴りから発音が確実にわかる。表音文字なんだから普通そうだろ、と思う。
一方、英語は表音文字を使っているくせに綴りから発音を推測することができない。各単語ごとに発音を憶える必要がある(だから入試に発音を答えさせる問題が出る)。
同じ綴りで発音と意味が違う「同綴異義語」まである。(polish, used など)
発音が推測できない表音文字など、ナンセンスであるとしか思えない。

仮定法・条件法

英語の仮定法は、しばしば過去形と区別がつかない。例えば
“I cound fly to you.”
というような文が「(ある条件を満たせば)あなたのところに飛んでいけるのに(でもそうすることはできない)」という意味なのか「かつてあなたのところに飛んでいくことができた」という意味なのかがわからない。
フランス語は条件法と過去形が区別できるので、そのような混乱はない。

会議や契約書なんかで使うことを考えると、billion の問題と仮定法の問題が致命的であるように思える。
billion の方は、もう確定してから 50 年以上たっているのでたいしたことないかもしれないが、仮定法の方は非常に困る。実際、小説を読んでいても困ることが多い。全部の動詞で“I were”のような、仮定法だとはっきりわかる形があったらだいぶ楽だと思う。

とまあいろいろ書いては見たが。
文法や発音規則がどんなにへぼくても、使っている人がたくさんいれば、それだけで国際語として合格だと思う。そうとしか思えない。

*1:とはいえ。私自身は “I cound fly to you.”をフランス語に訳せない程度にはフランス語を忘れている。辞書を引けば訳せると思うけど。