鍋あり谷あり

テーマを決めずに適当に書いています。

龍は眠る

宮部みゆきの『龍は眠る』を読み終えた。
話はまあまあ面白かったし、設定にも大きな不満はない。長すぎてたいくつということもなかった。
が。
文章が気に入らなかった。例えばこんなの:

人間というものは、ときどき、自分でも思いがけないほど強い誘惑にかられて、くだらないことをしでかす癖がある。(30ページ)

「人間というものは」で始まっているので「癖がある」ではなく「癖を持っている」で終わるべきだと感じる。あるいは、「人間というものには」で始めるべきだ。

おかしなもので、自分では勝手放題に散らかしていても、誰か他人の手が入ってそれをいじられたりすると、すぐにピンとくる。縄張りを荒らされた野良犬みたいなものだ。(373ページ)

縄張りを荒らされた野良犬という直喩が、私にはピンと来ない。野良犬は、勝手放題に散らかしたりするかもしれないが、誰かがそれをいじっても気にしなさそうだと思う。

それと。なんとなく、地の文を覆う価値観が、浅薄なきれい事風のものであるように時々感じられた。なんというか、男性社会が正しい世界だと無批判に信じている男性の価値観とか、そういう不愉快な感じである。
以前『蒲生邸事件』を読んだ時にはそんなことは感じなかったので、もしかしたら、著者が語り手に対して抱いている悪意なのかもしれない。私がこういう事に敏感になったのかもしれない。